【SDGs】化学業界におけるカーボンニュートラルをわかりやすく解説!基礎から商業化技術の解説まで!

化学業界の基礎

最近よく耳にする『カーボンニュートラル』という言葉を皆さんご存じでしょうか?

なんか環境に優しい系のことでしょ、、?

という感じにふわっと理解されている方も多いかと思います。

当記事では化学業界で必須の知識・トレンドであるカーボンニュートラルについてわかりやすく解説していきます。

当記事でわかること
  • カーボンニュートラルとは何か、企業にとってのメリット
  • なぜ化学業界ではカーボンニュートラルが鍵になるのか
  • 実際にどのような技術やビジネスが展開されているのか
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カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルでのカーボン(炭素)とは二酸化炭素のことを指しており、ニュートラルとは差し引きゼロのことです。

つまり、カーボンニュートラルとは『全体として二酸化炭素を排出しない状態』のことを言います。

は?何言ってんの?

ですよね。笑

この『全体として』という考え方が非常に重要になるので、例とともに理解を深めましょう。

農業で例えると?

野菜をスーパーに出荷する農家について考えてみましょう。

  1. 大規模な農場を想定すると、様々な農業機械を使用します。この機械を動かすには燃料を使用するので二酸化炭素を排出してしまいます。
  2. 作物が育つ過程では光合成が起き、空気中の二酸化炭素が吸収されます。ここでは二酸化炭素が削減されていますね。
  3. 次に収穫・出荷する際には、農業機械やトラックを使うので二酸化炭素を排出します。

ここで全体としての二酸化炭素排出量を考えてみましょう。

もし、2の二酸化炭素吸収量よりも1と3の排出量が多ければ全体として二酸化炭素を増やしてしまう事業(カーボンポジティブ)になります。

一方で、2の削減量と1、3の排出量が釣り合っているとその事業では二酸化炭素を排出していない、差し引きゼロの状態となります。

この状態がカーボンニュートラルであり、 産業界全体が目標とする理想形です。

カーボンニュートラルとは生産活動中に排出される二酸化炭素が差し引きゼロの状態をいう

カーボンニュートラルとSDGsの関係性は?

カーボンニュートラルはSDGsを達成するための手段のひとつです。

当然、二酸化炭素など温室効果ガスを削減するのは気候変動問題を解決するためです。

これはSDGsの目標13『気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる』に言い換えることもできますね。

企業にとってカーボンニュートラルに取り組むメリットは?

環境、環境言ってるけど、どうせ儲かるから必死なんやろ?

確かに最近はエシカル消費がブームになり、多少高くても環境に配慮した商品を購入するトレンドはあります。

しかし、環境配慮型のビジネスはコストが高くつくことが多く、儲かっていないビジネスがほとんどです。

それでも企業がカーボンニュートラルに取り組むのは、ずばり、現代では環境保全活動が企業を評価する軸のひとつだからです。

二酸化炭素を多く排出する企業への投資や融資を大手銀行が打ち切る事例が海外では多くみられます。

利益をだしていれば良い時代は終わり、環境に配慮したビジネスを行わないことがリスクとなるのが現代です。

環境保全は企業を評価する軸のひとつ。就活・転職の際は注意深く調べよう。

化学業界におけるカーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルの考え方に基づくと、化学業界は最も変革を求められる業界のひとつといえます。

近代において、化学産業は石油を原料とした石油化学を基礎として大きく発展してきました。

しかし、現代では、『石油=二酸化炭素を排出するもの=悪』という構図があるため、化学業界は石油に頼れません。

そこで鍵となるのが、

  • 植物由来の原料(バイオマス原料)
  • 廃棄物、二酸化炭素の原料利用
  • ポリマーのケミカルリサイクル

です。

どの技術も実現(商業化)へのハードルは高いですが、化学企業に逃げ場はありません。

実際、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標にしている企業が多いと思います。

化学企業各社の取り組みについて

化学業界といえど扱う基礎原料や主力製品は様々であるため、カーボンニュートラルへの取り組み方も様々です。

では、化学業界における代表的な環境調和型のビジネス・技術についてみていきましょう。

ごみからプラスチックを製造する技術を開発?! /積水化学工業×LanzaTech

積水化学工業は“ごみ”から“エタノール”を製造する技術を開発しました。“エタノール”はプラスチック原料となるエチレンなどの化成品に変換が可能な基礎原料です。

つまり、当技術により従来は石油から作られていたプラスチックをごみからつくることが可能になります

まさにカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーを体現する技術と言えますね。

他社との協業について

住友化学は積水化学工業の“ごみ”由来エタノールをエチレンを製造する事業は2025年に本格上市するとプレスリリースをだしています。

積水化学工業HPより

当技術ではごみを合成ガス(一酸化炭素 + 水素)に分解するところから始まります。

この合成ガスを米LanzaTech社が開発したバイオ触媒(特殊な菌)を使用して反応させることでエタノールが製造できます。

積水化学工業の技術力が光るのはバイオ触媒に供給する合成ガスの安定化です。

化学プロセスでは原料の組成(割合)が変わってしまうと、反応が進行しなくなったり、暴走したりする危険性があります。 そこで、供給する原料は一定の組成を保つ必要があるのですが、ごみの組成は毎日異なります。

日によっては生ごみが多かったり、衣類が多かったりとごみの組成が変わると、当然ごみからつくられるガスの組成も変わってしまいます。

また、ごみによってはバイオ触媒を壊してしまう不純物を発生するのですが、この不純物も除去しなくてはなりません。

積水化学工業は、自社のエンジニアリング能力を活かし、実際のごみから一定の組成の合成ガスを不純物なしで供給することに成功しました。

積水化学工業はエンジニアリング力を活かして“ごみ”から“エタノール”を製造する環境調和型のビジネスを展開している

ちなみに、当技術は業界内でも非常に評価が高い優れた技術と言えます

二酸化炭素を原料に使用する技術を開発!/旭化成

旭化成は二酸化炭素を原料とした化成品製造における国内の第一人者

2002年度と少し前になりますがGSC賞経済産業大臣賞を受賞した『副生CO2を原料とする非ホスゲン法ポリカーボネート製造プロセス』は要チェックです。

この技術では毒ガスであるホスゲンの代わり二酸化炭素を使用してポリカーボネートと呼ばれる樹脂を製造することを可能にしました。

二酸化炭素は非常に安定な化合物であるため、反応させるためには多くのエネルギーを消費してしまいます。

そこで、当技術ではエチレンオキシドと二酸化炭素を反応させることで二酸化炭素を活性化し、二酸化炭素を原料化することに成功しました。

この二酸化炭素はエチレンオキシドを製造する際に排出されるものを使用しており、二酸化炭素排出量を削減する優れた技術と言えます。

JACIテキスト 『GSC賞を受賞した社会的実践事例から学ぶ』 No. 2より

また、旭化成は国内最大級の水電解システムを福島県に有しており、水素製造のトップランナーでもあります。

このシステムは水と自然エネルギーからクリーンな水素を製造できる次世代の社会インフラを担う可能性のある技術です。

水素製造に関する矛盾

水素は消費しても水しかでないクリーンなエネルギーとして注目されていますが、水素の製造には二酸化炭素が排出されるという矛盾点を抱えていました。旭化成のような真にクリーンな水素を製造できる技術は要注目です。

旭化成は二酸化炭素の原料利用のパイオニアであり、クリーン水素の製造においてもトップランナー

旭化成の分析記事はこちらへ!

廃棄物からパンをつくる技術を開発?!/昭和電工

『空気からパンをつくる』ことを可能にしたと言われるハーバー・ボッシュ法という化学の世界で一番有名な製造技術をご存知でしょうか?

ハーバー・ボッシュ法では窒素(空気)からアンモニア(肥料)をつくります。実際に、この技術により食糧供給量が増え、人口増加を引き起こしたと言われています。

そのぐらい重要な化合物であるアンモニアを、廃プラスチックから製造する技術を昭和電工は確立してビジネスを展開しています。

昭和電工エコアンHPより

当技術では廃プラスチックを熱で分解して合成ガス(一酸化炭素 + 水素)をつくります(ここまでは積水化学工業と一緒です)。

合成ガスに含まれる一酸化炭素と水を反応させることで水素を発生させ、合成ガスから純粋な水素を製造します。

この水素からアンモニアをつくるという多段工程で廃プラスチックからアンモニアを製造するプロセスを構築しました。

ちなみに、この技術でアンモニア製造に伴い排出される二酸化炭素量が34%も削減できるそうです。

この事業は2003年より本格稼働しており、廃プラスチックの利用技術では昭和電工が他社と比べて優位に立てそうです。

昭和電工は廃棄物利用の国内化学業界におけるパイオニア

昭和電工の分析記事はこちらへ!

全ての化成品をバイオマス由来で製造可能?!/三井化学×Neste

三井化学は2021年10月よりバイオマスナフサを石油由来ナフサと混合して使用することを発表しました。

下図に示すように、ナフサとは多様な化成品へと展開されるまさに化学産業の米ともいえる基礎原料です。

三井化学 2021年経営概況説明会より

ここで重要になるのが『マスバランス方式』という考え方です。

簡単に言ってしまえば、バイオマス原料と石油由来原料を混ぜて製造した場合、バイオマス原料を混ぜた割合分だけ好きな製品をバイオマス原料由来と主張できるルールです。

このマスバランス方式に従えば、三井化学はナフサから得られるどの製品でもバイオマス由来で製造したと主張できます

非常に強力なビジネスに展開できそうですが、一方で、バイオナフサは非常に高価であるため、ビジネスとして成立するのか疑問視する声も多数あります。

現在、市場に出回るバイオナフサの殆どがNeste社が製造したものであるため、他社が大量のバイオナフサを提供できるようになれば状況は一変しそうです。

三井化学は他社に先駆けてバイオナフサを導入した

三井化学の分析記事はこちらへ!

まとめ

当記事では、化学業界におけるカーボンニュートラルの重要性を操業されている技術とともに解説しました。

サステナビリティに対する取り組みはいまや企業を評価する代表的な指標のひとつです。

就職や転職を希望する企業の環境保全に対する活動は必ずチェックするようにしましょう。

この記事を書いた人

博士号を取得後、アカデミックから逃げるように総合化学に就職した研究者。会社では新規事業の開発に従事している。入社後、社会勉強のために証券アナリスト資格を取得し、分析力をいかすため当サイト『化学業界解剖計画』の運営を開始した。

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